10.想いは永遠に −2

「<アマテラス>、『PSI 波動砲』発射シーケンスに入りました!データレコーディング開始します。」アイリーンの報告にIMC は緊張に包まれた。

アルベルトはアイリーンの操作するコンソールパネルに表示されるデータログを彼女と共に覗き込む。

藤川と東、田中は無言のままメインモニターに映し出されるシミュレーション空間模式図に目を見開いた。

「船首共振フィールド展開、ターゲットPSIパルスデータリンク!」「…データリンク開始…PSI-Link コンタクト確認よし。放射管制システム…起動。」

カミラの指示に続けて、直人は事前訓練で覚えたての手順を一つ一つ進める。不慣れな手順に声が浮つく。

「ナオ、焦らず一つ一つ確実に。」

「はっ…はい!」

直人の座席のコンソール中央に拳銃型発射装置が迫り上がる。アルベルトの説明では、船首固定の砲の照準のため、船の姿勢制御機構と連動している発射装置らしい。PSIブラスターのようにPSI-Linkシステムによる完全照準コントロールも不可能ではないが、メインパイロット(ティム)の操縦系統のPSI-Link機能との競合を避けるため、あえてマニュアルコントロールを組み込んでいる。
そのため直人には変性意識状態と肉体感覚の両方のバランスによる高度な操作が要求されていた。

「ティム!気流の流れが速い。直人への操船スイッチはギリギリまで充填してからだ、いいな!?」「任せてください、副長!」

ティムは左右のスラスタとスタビライザーを巧みにコントロールし、気流の流れの中で確実に<アマテラス>をPSI波動砲の有効射程圏へと導く。

「PSIパルス同調率80%、ナオ、同調コントロールを渡すぞ!」「はい!」

アランが同調コントロールの切り替えを行うと、直人は手にした発射装置に設けられたPSI-Linkモジュールを通して、ターゲットのPSIパルスが身体と意識に流れ込んでくる感触を覚える。亜夢の中にいた「メルジーネ」と似ているが、どこか無機的だ…

「PSI-Link…目標感知!ターゲットスコープ、オープン。」

直人は、変性意識へ自らを導こうと呼吸を整えていく。ざわざわとした感触が胸のうちで蠢いているのが気にかかる…

「相対距離30!有効射程圏に入りました!」

「回頭!左20度!」「回頭左20度!」

気流の流れの中で、スラスタとスタビライザーを連携させながら、ティムは<アマテラス>の船首を積乱雲の中央へと向けていく。

「エネルギー充填120%!ティム、直人にかわるんだ。」アランがPSI波動砲の発射準備が整ったことを告げる。

「了解!渡すぞ、ナオ!」「りょ…了解。」

発射装置に船の重みがのしかかったかのような感触が伝わってくる。
発射装置のPSI-Linkモジュールが反応し、仄かな熱を発する。直人は発射装置と一体となるように意識を集中させていく。

「ターゲット中央部、波動収束率上昇!90%に達します!」

「良いわよ、ナオ。その調子!」

モニターに映し出された積乱雲の一角にメルジーネの形状が浮かび上がってくる。自己の心象に浮かぶメルジーネの像に、モニターの光景を重ねながら、発射装置で照準を絞り込む直人。

「安全装置解除…射線誤差修正、右1度、上下角3度…。発射10秒前…」

直人の心象に映るメルジーネは無表情のまま的となることを受け入れている…ハズだ…。

「9…8…」

メルジーネとの同調を高めれば高めるほど心象のざわめきは、声ならぬ声となって直人の胸の内に響く。

…消すのね…私を…

…!?

心象の中の無機質なメルジーネの目が直人を見据え、直人の心を見透かすように、声を発したように感じた。

「…7…6…」

直人はその声を打ち消すように、力を込めカウントを続ける。

…一緒に…生きるなんて…嘘…

…そうよ…貴方は…誰ともいられない…

…自分が…生きるために…

「…くっ…5…4…」

…“オマエ”は他を滅ぼす…

「!?どうした、直人!同調コントロールが乱れているぞ!」

同調率のモニタリングをしていたアランは、真っ先に異変に気付き、直人に警告を飛ばす。

インナーノーツの一同は固唾を飲んで直人を見守る。

「…3…2…1…」

額には汗が滲み、発射装置を握る腕が痙攣したように笑いだす。

「『PSI 波動砲』、発射!」

しかし、カミラの発令に直人は反応しない。

「ナオ!?発射よ!」

カミラは念を押すようにもう一度直人に命ずる。だが、直人は肩を震わせ固まるばかり。

その時、同調率のグラフが反転を始める。

「同調率反転!?まさか!」アランの顔が蒼ざめていく。

「いかん、カミラ!PSIパルスの逆流だ!今撃ったら暴発するぞ!すぐ発射中止だ!」モニターに現れたアルベルトがまくし立てる。

「何ですって!?アラン!非常弁閉鎖!全排気口開放、エネルギー放出!」

…消しちゃえ…消しちゃいなよ…

ドゥクン…ドゥクン…ドゥクン…

直人は、胸の内に激しい衝動が走り、その熱の塊が身体のうちから飛び出しそうになるのを必死に堪える。

「撃ち方止め!ナオ!聞こえているの!ナオ!」

「ナオ!」「センパイ!!」

仲間の呼び掛けはまるで耳に入らない。
メルジーネの瞳は直人をじっと見据える。

「う….うわぁぁぁぁぁ!」

目を血走らせた直人は、衝動のはけ口を探るように発射装置を前後左右に激しく揺さぶる。その度に<アマテラス>は激しく揺れ動く。

「や…止めなさい!ナオ!」カミラの制止も直人の耳に届かない。

心象の内のメルジーネは次第にその姿を変化させていく。その姿は直人によく似ている。

「お…お前なんかぁぁぁぁ!!」

錯乱した直人は、トリガーに置いた指先に力を込める。

…ダメ!!…

…!!

何者かの声が身体のうちから木霊する。

「止めろ!ナオ!!」

直人の一瞬の戸惑いに割って入ったティムは、発射装置の安全装置をかろうじてロックさせ、姿勢制御をホールドに切り替えると、強引に発射装置から直人を引き離す。

「うぁぁぁぁ!」「ナオ!おい、しっかりしろ!」

シートの後ろから羽交い締めにするように直人を抑えつけるティム。だが、錯乱した直人は何度もティムを振り払い、発射装置に取り付こうともがく。

「ナオ!」

不意に直人は胸ぐらを引き上げられ席から引き立たせられた。次の瞬間…

パシイィィン!!

カミラの右の平手が勢いよく宙に舞う。

「いい加減になさい!!」

左頬に熱が広がる。直人はその反対側に視線を落としたまま身動ぎ一つできなかった。
カミラの怒声に一同は目を丸くしながら、ただただ呆然と二人を見守る。
<アマテラス>のブリッジはいっ時の静寂に包まれた。

「ガントリーロック、固定確認。機関停止。」

間も無く<アマテラス>はシミュレーション空間より帰還した。ブリッジは決まりきったシステムたち下げのプロセスを粛々と続ける。

「さて…と…。小腹も空いたし…お先に失礼しま〜す。」

微妙な緊張が残るブリッジ。その雰囲気を嫌い、システムのたち下げを確認したサニは、いつもより歯切れの悪い軽口を呟きながらその場を早々に立ち去ろうとする。

「ええ、お疲れ様。」

普段ならカミラが一言二言突っ込むところだ。
直人を見やると自席で丸くなるようにうずくまっている。サニはその様子に後ろ髪を引かれながらブリッジを後にする。

「ティム。」サニに続いたアランが、直人を心配そうに見つめるティムの退出を促す。

「あ…あぁ。…ナオ、先に上がるな。」ティムはアランの促しに従い席を立つと、二人は連れ立ってブリッジを出て行く。

カミラは、自席を立つとうずくまる直人の方へ向かう。

「さっきは悪かったわ。ああするしか…」

直人は無言で首を振った。
自分の意識を引き戻してくれたのはカミラだ。その事くらいわきまえている。

「でも、いったいどうしたというの?今日だけじゃない。このところ様子が変よ。」

「…」

「…そう。話せるようなことではないのかしら?」

カミラはPSI波動砲の発射装置が格納されたダッシュボードに視線を落とす。

「変性意識下での貴方の能力はズバ抜けているわ。調整がまだ不完全であったにせよ、おそらくコレを使いこなせるのも貴方だけ…」

「でもね。それは同時に貴方の意識の不安定さでもある…」

カミラはうずくまったままの直人の肩にそっと手を添える。

「何かあるなら一人で抱えこまないで…。」

「…すみません…」

直人はそれ以上、口を開くことはなかった。
カミラが小さく溜息を吐くのが聞こえる。

「もういいわ…あがって念のため検査を受けなさい。いいわね。」

「はい…。」直人は小さく返事をすると、自席を立ち、そのまま俯きかげんに<アマテラス>の昇降ハッチへ向かう。カミラもそれに続いた。

「あっ。やっと来た〜。センパ〜イ!」

昇降ハッチのエレベーターに直人とカミラの姿を認めたサニが、タラップの向こう側で手を振って呼び掛けている。

同じく先に降りたティム、アラン、それに藤川所長と技術科員を数名連れ立ったアルベルトの姿もある。

「…サニ、ティム…」

「ふふ、ちゃんと待っててくれたじゃない。」

直人の肩を軽くポンと押し出すように叩くと直人を彼らの元へ促す。

直人はバツの悪そうな表情を浮かべながらタラップを降りる。

「その顔、隊長に絞られたな。」ティムがニヤけながら尋ねてくる。「いや…」直人は素っ気なく返事を返した。

「ちょいと調整が甘かったようだ。もう少しお前さん向けに合わせこみしとくよ。」
アルベルトは直人の肩を叩きながら言葉を掛け、技術科員を引き連れて直人と入れ替わりでタラップを渡っていく。

「直人…。」直人はふと顔を上げると、じっと直人を見据える藤川の視線とぶつかる。
藤川の目は、直人の心のうちを読み取っているかのようで、直人は、居た堪れず俯いた。

「…。」藤川はそれ以上、声をかけることなくアルベルトの後に続いて<アマテラス>のハッチへと向かった。アランもそれに続く。

「先程の訓練データを中で所長達と確認する。」
ハッチの脇に残っていたカミラにアランが声をかける。

「そう、所長、では私も。」

「うむ…。」

「貴方たち、ナオの検査に付き添ってあげて。」カミラはサニとティムにそう言い残し、藤川、アルベルト、アランと共に再び船内へと降りていった。

「はーい!行こう、センパイ。」
「…あ、うん…」直人はサニとティムに引っ張られるように<アマテラス>格納庫の直通エレベーターへと乗り込んでいった。

重力、慣性制御されたエレベーターは静かに3人をIN-PSID中央区画の地上施設へと導く。

終始無言の直人にサニとティムもかける言葉がない。

静まり返ったエレベーター内に突如、無機質なコール音が鳴り響く。

直人は腕の小型端末内蔵型アームカバーを確認する。カバー表面にメールの着信通知が表示されていた。(PSI-Linkシステムの誤動作防止の為、端末との脳波感応通信機能は排除されている。またインナースペース内活動中は外部との通信には使用できない。)直人はそれを確認することなく通知を消し、顔をあげた。

「メール…誰から?」話題を欲していたサニが興味本位で聞く。

「…母さん。」直人は短く答えた。

「見なくていいんか?俺たちにお構いなく…。」

「いい…中身…わかってるから…。」

直人の力ない返事に思わずティムとサニは顔を見合わせる。

「どうだ、アル…。」

「ちょっと待て…っと、よし来た来た。」

アルベルトは直人の席に座り、持ち込んだ分析用端末でPSI波動砲発射装置のメンテナンスポートから有線でログデータを吸い上げている。
トリガーコントローラに蓄積されたPSIパルスのデータが端末のグラフィックモニターにプロットされていく。

「…うむ…やはりな。コーゾー、見てみろ。」

藤川、カミラ、アランはそこにグラフ化されたいくつかの波形パターンを覗き込んだ。

「…アル、キミの読みが正しかったようだな。」

「所長、どういうことですか?」

藤川は、モニターから顔を上げると、無言のまま上を見上げ、軽く目を閉じる。

「コーゾー。お前だって、こうなることは薄々予感していたんじゃないか?…にも関わらず、あえてこの砲のテストに踏み切った…。違うか?」

「!?」訝しむカミラとアラン。アルベルトは二人をそのままに続けた。

「だが、今のままアイツにこのトリガーを握らせるのは自殺行為だぞ。」

アルベルトは嗜めるように続けた。

「この砲はな、ターゲットとの高次元域での同調が要求されるため、このトリガーを握る者は自ずと自らの意識活動を深層無意識域まで拡張する…」

「ということはもしや…」カミラはアルベルトの言わんとしていることを察する。

「そう、アイツがこの照準の先に見ていたのは、アイツ自身の影だ。」

そう言いながら、アルベルトは分析端末のモニターを再度カミラとアランに確認させる。
ターゲットのPSIパルスのとしてプロットされた波形は、直人のPSIパルスとほぼ相似形を成していた。

「コーゾー…。」

アルベルトは席を立つと藤川を真っ直ぐに見つめた。

「おそらく、アイツの無意識は全てを覚えているんだ…あの時のことを…。それがこの結果だ。」

アルベルトは語気を荒げた。
藤川は静かに目を見開く。

「…向かい合う時なのだ…直人も…我々も。」

「…ふむ…身体への影響は認めず。パーソナルPSIパルスに若干の乱れはあるが、異常という程でもない。」

直人の検査結果からは、特筆するような異常値は出なかった。検査担当医は、直人のこのところの不調は、ごく平均的なストレスによる影響ではないかと推察した。

「…何か悩んでいる事とかないのかね?」

「…。」直人はしばし考え、気にかかる事を思い出す。このところ頻繁に来る母からのメール…確かにあれは煩わしい…がストレスを感じる程でもないし…

「あるよねぇ!セ・ン・パ・イ」

直人が考え込んでいると、サニがニヤけながら嬉々として割り込んで来た。

「愛しのあ・の・ひ・と。」

誰の事を言わんとしているか、直人にはすぐわかった。今の今まで、意識にはなかったが、サニのひと言は、直人に彼女を想起させ、同時に彼の心拍数を跳ね上げさせるには十分だった。

「そういえば最近見かけねぇな。」ティムも便乗する。

「ち…違うよ!そんな事じゃ…」

「まぁたまたぁ〜」サニは直人の反応を喜ぶように直人の肩を人差し指でクリクリと弄りながら冷やかし続けた。その手をハエを追うように払いのける直人。

「なんだ、恋の悩みか。」

「せ、先生まで!そんな…。」

「まぁ、そういう事なら健全だ。良い良い。大いに悩みなさい。仕事に支障ない程度にな。」

検査医は、問題解決と言わんばかりに検査結果の端末入力を終えた。

「ち…違います!」「えっ、じゃあ、なんとも思ってないの、あの人の事?」サニは空かさず突っ込む。

「いや…それは…その…」直人は口ごもるしかない。

その時、検査室の扉が不意に開く。

「あれ、みんなお揃いで。どうしたの?」

「あっ…。」

真世がそこに立っていた。
さしあたり、祖母に用事を頼まれたのであろう、数種類の薬箱を載せた台車を運んで来ていた。
計ったようなタイミングに一同、声を失う。

「んっ?何?」

一気に赤面した直人は、振り返ることもできず、そのまま顔をうつ向けていた。
噂の主が誰なのか、納得した検査医は、頼んでいた薬の補充を受け取ると、検査室に集まった彼らを厄介払いでもするかのように部屋から追い立てた。

「そっかぁ…訓練大変そうだね。大丈夫?風間くん?」

「…ん、あ、うん、もう何ともないよ。」

ティムが経緯を掻い摘んで真世に伝える。直人の錯乱には触れず、気分が悪くなったのだ
とだけ伝えていたようだ。

相変わらずティムとは気が合うらしく、真世はティムの最近の訓練の話題などに愉しそうに耳を傾けている。

「全く、ティムももうちょい気を利かせろっての、ねぇ、センパイ。」

「な…何のこと…」直人はサニから顔を背けてしらばっくれるばかり。面白くないとばかりにサニは顔をしかめる。

直人とサニはいつの間にか、ティムと真世の後に続くような形になりながら、真世について病院区画への通路までやって来ていた。

「それじゃ、あたしはここで。」

不意に真世は、そこで立ち止まった。

「…!」直人は、ハッとなって顔を上げる。
何か言葉をかけなきゃ…っと尻込みしているかのようだ。サニは呆れ顔で一息ため息をつく。

「あ、そーだ!明日、日曜だし、これからみんなで飲みにいかない!?真世さんも一緒に、ね?」見兼ねたサニが声を上げた。

「お、イイね!たまには行こうぜ、真世?」

ティムも話に乗っかり真世を誘う。

「あ…あたし?…ごめんなさい、今夜は母についてないと…。」

「たまにくらい、大丈夫だろ?」

ティムがもう一押しする。

「…天気が良かったから、昼間庭に連れ出したんだけど…そのあとちょっと体調崩したみたいで…あたしが無理させたから…」

真世は顔を曇らせる。

「そっか…」さすがにティムもそれ以上は誘えなかった。

「ごめんね、みんなで楽しんできて。それじゃ。」
そう告げると、真世は病院棟の方へと歩みを進める。
一度振り返り、3人に手を振るとそのまま病院棟の方へと姿を消す。

「あ〜らら、残念ね、センパイ。」

…「…いいよ、べつに…」直人は、サニの言葉に淡々と返す他なかった。

日本海へ傾きつつある夕陽は、ガーデン一帯をオレンジ色に染め上げる。それとは対照的に樹々の間にはインナースペースの深奥へと誘うかのような闇が至る所で口を開く。

昼間の人気の無くなったガーデンに、今日一日の命の終わりを惜しむかのように、夏蝉が高らかな合唱を響かせていた。

神取は、その庭へ足を踏み入れるとそのまま一つのベンチに腰をおろし、持ち出したタブレットで施設入居者らのカルテの閲覧を始めた。いくつかカルテを送っていくと一人の少女に目が留まる。

…その娘です…

樹々の間の闇から女の声が囁きかける。

…彩女か…

闇の中から白拍子の姿をした式神、彩女がぬぅっと姿を見せる。神取以外に彼女の姿を捉えるものはいない。

…大義であった…

…勿体のうお言葉…

…其方の報告で、『御所』も動き出している…私もようやくここに出入りできるようになった…私自ら、この娘との接触をはかる…

…旦那様自ら…

…うむ…

刻一刻と陽は水平線の彼方へと姿を隠しつつある。

…やはりこの城、内側からも容易くは落とせぬな…

闇を深める樹々の間の影から別の声が木霊する。

…玄蕃、あんたもこっちへ来たんかい?…

…我は主と共にある…当然の事…

霊力を有するものであれば、忍の姿をした式神が闇より出現する様子を捉えることが出来たかもしれない。
彼の姿も、彩女と同じく神取にのみ見えている。

…結界は強固だ…加えて霊感機能を備えたカラクリがあちこちで作動している…

…その出で立ちも然り…

玄蕃は、神取が着用しているユニフォームを睨める。

…これか?…

…うむ…建屋のカラクリと連動して結界を展開している…建屋の結界に比して貧弱だが、思念波の類に一定の遮断効果があるようだ…

…どおりで…旦那様がこちらにいらしても、我らの思念波が思うように旦那様へ伝わらないわけだ…忌々しい…

…気休め程度と思っていたが、侮れんな…

神取はユニフォームに視線を落とすと苦笑気味に呟いた。

…旦那様、是非ともお召し替えを…

…そうもいかぬ…

神取はおもむろに立ち上がる。

ガーデンの眼下に広がる日本海は、既に水平線の彼方へと夕陽を押しやっていた。

…我らの目的は、この娘…いや、『神子』の奪取にある…だが問題はどうやってここから連れ出すかだ…

神取は式神らに背を向けたまま、赤く染まる水平線の彼方を見据えながら、彼に下された「勅命」を静かに反芻していた。

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