9.魂たちの二重奏 −1

<アマテラス>下方の海原は荒波を掻き立てながら『低気圧』へと引き込まれ、まるで蚕が繭を作るかの如く、『低気圧』は荒波を纏っていく。周辺領域は最大、100キロメートル相当に達する波動収束フィールドを軽々と凌駕し、中枢領域だけでも直径50キロメートル程の巨大な雲柱が聳え立つ。

<アマテラス>は海面への突入角度を維持しつつ高度を下げる。

「3時の方向に高波!7時方向からも接近中!」

「ティム、針路を波間に沿わせて。突入角20度!」

「ヨーソロー!」

「船首にシールド集中展開!対衝撃防御!」

<アマテラス>ブリッジの正面モニターに荒波の海が迫ってくる。

直人は亜夢の『セルフ』が身震いするのを感じていた。

…大丈夫、きっと助けるから…

…オレたちを信じて、一緒に!…

亜夢の『セルフ』を引き上げたその時から、直人はPsi-Linkモジュールからいっ時も手を離さない。
直人は自身の心の中に浮かぶ赤ん坊の姿をした『セルフ』を抱きしめ続けていた。

「高度30!」

「20!」

サニはレーダーを睨み海面との相対距離をほぼ秒刻みでカウントし続ける。

ティムは降下スピードをそのままに、高波の谷間に<アマテラス>を滑り込ませるように誘導する。

モニターに激しく水しぶきが打ち付けているのが見える。

「高度10!」

「突入するぞ!!」ティムは声を張り上げるとそのまま海面に<アマテラス>の船首を一気に潜り込ませていく。

水面を突き破る衝撃がブリッジを揺さぶる。
インナーノーツは身を硬くして、その衝撃に耐えた。

「下げ舵5!増速黒十!量子スタビライザー起動!」

激しく揺さぶられるブリッジの中で、カミラは指示を飛ばす。
スタビライザーが稼働し始めると、数秒足らずで振動は徐々に弱まっていく。

ブリッジのモニターには、海中の様相が拡がり始める。藤川の読みどおり、海上の荒波とは打って変わり、静けさに包まれる。

「…潜航、完了。」船が落ち着きを取り戻し、ティムは深く溜息をつく。

「船体に損傷認めず。シールド解除。上出来だ、ティム。」「トーゼンっしょ。」余裕ぶりながら返答するティムにアランは軽く微笑み返した。

「IMC、海中への侵入に成功した。」

「了解。こちらで観測している座標マッピングデータをリアルタイム転送する。航路リンケージを設定されたし。」

ティムと田中は何度かやりとりし、移動する『低気圧』直下の海域への追尾針路を設定していく。

海中は確かに穏やかではあったが、『低気圧』に向かういく筋もの潮流が重なり合う。

その合流域では大小の渦を形成し、そこにはまり込めば、身動きが取れなくなるばかりでなく、船を損傷する可能性もある。

追尾針路を頼りに、それらを回避しながら<アマテラス>は海中を慎重に進んだ。

「インナーノーツ、海中の様子はどうだ?」

モニター越しに<アマテラス>のブリッジを覗き込む東。海中の様子は、IMCでは観測できない。

「『低気圧』に海水全てが引き寄せられているようです。海中にも速い水流が形成されていますが、航行に支障ありません。このまま目標へ…」

ゴウゥン…ゴウゥン

ブリッジに響く鈍い音が、カミラの報告を遮る。

「どうした?」東は空かさず確認を求める。

「後方より漂流物多数!…あ!上方、船尾4時方向からデカイのが!」

サニの報告にティムは咄嗟に判断し、さらに下方へ回避行動をとる。ブリッジのモニターには、大小様々な建造物の瓦礫のような物が<アマテラス>の頭上を横切り過ぎていく様が映し出された。

「何なんだよ、おい?」現実の海ならともかく、心象の海中に漂う漂流物をティムは訝しむ。

鉄筋、梁状の構造物、外壁らしき剥がれおちた建材…よく目にするものが大半である。
だが、カミラはその中に見慣れない異物が入り混じっているのに気づく。

「何かしら…サニ!ビジュアルモニター拡大投影!」「はい。」

瓦礫群が拡大されていく。
見慣れた瓦礫に混ざっていたのは、大量の樹木が根っこから掘り起こされたような漂流物…その中に、光り輝く巨石や巨大な彫像のようなものの一部、結晶体と樹木の合成されたような物が入り混じっている。

「遺跡かしら…?しかしこんなものは…」

その映像を目にした直人は、ハッとなる。
どこかで見たような感覚…そんな感覚が、チリチリと胸を刺すように込み上げてきた…。

さらに目を凝らすカミラ。しかし次の瞬間には、見慣れた建材の瓦礫しか見えない。

モニターに映し出される瓦礫の映像が水流に揉まれながらその姿形を変えているようだ。

「海中のタイムパラメーター変動率40%!『低気圧』中心方向に近づくほど、波動収束フィールドの時間軸が安定してません!」

レーダー盤のサイドに表示される波動収束フィールドパラメーターのかつてない変動に驚くサニ。焦り交じりで報告をあげる。

「何ですって!サニ、変動最大振れ幅は?」

「…データ計測中…お、およそ1万5千年!」

「一万…不味いわね…。」

「ああ、PSI バリアが耐えられるうちは船内時間も保護されるが…この振れ幅ではPSI バリアの消耗も著しい…。」

ミッション開始から約3時間、その上、想定外の事態対応の連続…『セルフ』との同調によるエネルギー供給があるにせよ、活動限界が近づいている事をアランは憂慮していた。

「どのくらい保つんだ、副長!」

「現状の同調率、エネルギー損耗率を維持できたとしておよそ一時間、だが、あの『低気圧』の内部で、シールドを併用したとしてもどこまで持つのかは…」

ティムの問いにアランはわかり得る限りの解答を示す。

「やってみなきゃわからない…。」直人は自分に言い聞かせるように呟く。

「急ぐしかないわね。サニ、目標まであとどのくらい?」

「現座標基準で相対距離およそ20km!…ですが時空間の伸縮が著しく、特定困難です。」

「厄介ね。」カミラはモニターに映る瓦礫群を静かに睨める。

「仕方ない…サニ、航路策定をPSI-Linkモードに。随時修正を加えながら進むしかない。」

「えぇ!?」カミラの指示にサニは不満の声を漏らす。

「負担が大きいのは承知よ。けど、このままでは目標に辿り着くことすら叶わなくなるかもしれない…。」

カミラはサニの方へ向き直り、まじまじとカミラを見つめる彼女の瞳を見つめ返す。

「貴女が頼りよ。皆んなの目になってちょうだい。」

PSI-Linkダイレクト接続によるナビゲーションは、オペレーターの潜在意識に波動収束フィールド観測可能全域情報を展開し、オペレーターによる直接観測によって波動収束効果を高める。オペレーターの力量にもよるが、<アマテラス>の機械観測では観測不可能な時空間情報をフィールド内に収束させる事も可能だ。サニも直人と同じく、高変性意識活動能力を有し、特にこのナビゲーションシステムはサニにしか扱えない代物であった。

「もぅ…。5分が限界よ!ティム、その間に目標にたどり着いてよね!」

「任せろ!」

サニは、自身の席に設けられたPSI-Linkモジュールに左手を乗せ、軽く目を閉じて深呼吸から呼吸を整えると、静かに変性意識状態へと落ちていく。

モジュールがその反応を捉え、青白く輝き出す。

意識の中に大量の情報がなだれ込む感覚を覚えるサニ。すると次の瞬間、知覚が急速に拡大していく。

フワリと宙空に浮き上がり、意識の目を開けると<アマテラス>の外界へと飛び出している。いや、<アマテラス>と一体となっているのか?

…サニ!…

声のする方へ意識を向けると、同じくPSI-Linkシステムに接続している直人の姿があった。腕にはしっかりとあの赤ん坊、すなわち亜夢の『セルフ』を抱きかかえている。

外界の水流の圧力に赤ん坊を持っていかれまいとしているようだ。
まるで我が子を必死に庇う父親にしか見えない。

…へへっ、なかなか様になってますね、センパイ…

…か、からかうなよ!…

照れ臭そうに返す直人に、優しく微笑み返すサニ。

…あの光の方だと思う…

直人が指し示した先に、激しく渦巻く水流の奥底に微かな光点が見える。確かにIMCから送られてくる目標地点の座標方向と一致している。

…うっわっ、あんなところに…

…サニ、頼む!…

…はいはい。センパイはしっかり子守してて!…

サニはその光点へ向けて意識をさらに研ぎ澄ましていく。

「航路修正…座標1-1-1.5へ。速力20で5秒加速、続いてさらに速力25に増速…10-…-11-…2…へ。それから…」

サニはうわ言のように修正航路の道筋を示す。その航路はPSI-Linkシステムで共有され、ティムの扱う操縦系統へデータが送信されてくる。

ティムの潜在意識にも操縦桿に備え付けられたPSI-Linkモジュールを通して、その航路図がプロットされていく。

「サニ、ナイスナビ!」

ティムは一気に<アマテラス>の機関の出力を上げると、サニのナビゲーションに従い、船を進める。

直人とサニに続き、ティムも変性意識状態へと入っていく。変性意識状態下の活動能力は二人ほどではないが、知覚の拡大したティムは、流れ来る漂流物を紙一重でかわしながら、次々とサニが示す座標へと<アマテラス>をひた走らせる。

「<アマテラス>、まもなく目標座標直下へ接近します!」

「現象界との時空間差が激しい。見失うなよ、田中!アイリーン!」「はい!」

田中とアイリーンは声を重ねて東に返事を返す。

IMCでは、<アマテラス>から刻一刻と送られてくる時空間データと、移動する『低気圧』の中に取り込まれている生体へのコネクション座標を擦り合わせ、再マッピングする作業を田中とアイリーンが連携してリアルタイムに実施していた。

時間が経つにつれ、保護カプセルの亜夢を照らす治療光は暗黒の雲のようなモヤへと変化していく。カプセル内で心象世界の現象化が進んでいる。

…不味いんでないかい…今、あの娘に死なれては…

真世に取り憑いた式神、彩女はIMCで、インナーノーツらの奮闘を傍観していたが、亜夢の危篤を察すると、あたふたと対処に追われる真世に苛立ちを募らせる。

…まったく、見てらんないよ!…

彩女は、モニターをとおして真世に指示を送る貴美子に意識を集中した。モニター越しではあるが、貴美子の処方イメージを何とか感知した彩女。

…なるほど…こうするんかい…

「…!」真世の頭が一瞬仰け反る。

「真世?…どうしたの!?」その様子を見ていたのはモニター越しの貴美子のみ。IMCのスタッフは誰も気づいていない。

「…大丈夫…」ゆっくりと真世の頭が元の位置に戻る。

すると、先ほどまでの戸惑いが嘘のように、次々と処置をこなす真世。貴美子はその様子に目を見張る。

「…これで良いかしら…『おばあちゃん。』」

「え…ええ…」自分が伝えようとしていた事まで完璧にこなす真世に貴美子は驚きを隠せない。その真世の目に何か得体の知れない不気味さを一瞬感じとる貴美子。

しかし、次の瞬間。

「…あっ!えっと…。」急に狼狽しだす真世。

「ごめんなさい。なんだかぼっとしちゃって…どこまで行ったっけ!?」

「もう済んだわよ。貴女が全部やってくれたわ。」モニター越しの祖母は、呆気にとられた顔でそう言うと口を閉ざした。

「え?…」真世が眼下の亜夢の収容カプセルに目をやると、先ほどまで立ち込めていた暗雲が解消されている。亜夢のバイタル値も何とか持ち直している。
どういう事なのかさっぱりわからない真世は、怪訝そうに亜夢の収容されているカプセルを見つめ続けるのみ…

「真世!」「は、はい!」狐につままれたようにきょとんとしていた真世は、東の呼びかけに引き戻される。

「まもなく<アマテラス>は目標座標に到達する。生体側の反応に十分注意してくれ。それと集中治療室の受け入れ準備を!」

「わかりました!」

ミッション最終フェーズに突入するIMCに、緊張が漲る。

…さてと、いよいよかぃ…

彩女はその冷たい視線をカプセルの中の亜夢に投げかけた。

…目を覚ましておくれよ…

「…座標10-2-1へ…最終加速30…正面…目標座標直下…うっ…。」

…サニ!…

直人の潜在意識のビジョンからサニのイメージが消失する。

変性意識から戻ったサニは、その身をレーダー盤へも垂れさせる。

「…はぁ…はぁ…全ナビゲーション…終了…」

頭の中のメモリーが一気に解放されるのと同時に、虚脱感が全身を襲う。

「よく頑張ったわ、サニ!」「…す、少し休ませてぇ…」

さすがにカミラもそれ以上、サニに言葉をかける気にはならない。サニの的確なナビゲーションにより<アマテラス>は、時空間変動の潮流の合間を駆け抜けた。

「ティム!速力そのまま!一気に海面へ出る!」

「了解!」

…もう少しだよ、亜夢…

なおも変性意識状態のまま、赤ん坊の姿をした亜夢の「セルフ」に語りかける直人。その腕に赤ん坊はしっかりとしがみ付いている。

直人は変性意識の中で、サニが導いた先の空間に「目」を凝らす。

…何だ?…

水流が集まるその先に黒々と巨大なモニュメントのような影が現れる。

ブィーン・ブィーン・ブィーン…

ブリッジに警報が鳴り響く。

「ティム!正面!!」直人が声を張り上げた瞬間、正面のモニターを巨石の壁のような像が覆う。

「チィ!」ティムは、操縦桿を思い切り手前に引き倒すと、<アマテラス>の船首が垂直方向にに持ち上げられ、巨石の壁ギリギリを伝うようにそのまま海面を目指して突き進む。

<アマテラス>が上昇すると、その巨石が祭壇のような構造物の一角を成している様がモニターに捉えられた。

その中心部に惹きつけられる直人。

…誰かいる?…

変性意識の直人の目は、下方に遠ざかる祭壇の中央に人らしき影を認める。

…!…

不意に感じた左手にチリチリとした痛みが、記憶を呼び覚ます。<アマテラス>起動試験の時に感じた感覚だ。

…まさか!?…

次の瞬間、その者の視線をはっきりと受け止める。

…ァム…ネィリ…ァ…

込み上げる何か別物の感情と共に意識の中に登ってくるその者の名。…

…生きたい…

貴方と…でも…それは…それは!

先ほどから感じていた左手の痛みは腕を伝わり全身へと激しい熱量となってなだれ込む。

…亜夢!?…

その者の発する強力なPSIパルスと感応したのか、「セルフ」が再び炎を纏い始め「サラマンダー」の様相を帯び始めていた。
その様子はブリッジ中央のマルチ投影ホログラムにも現れる。

「ティム!急いで!」焦りを感じ始めた直人はティムを急かす。

「これでいっぱいだ!」そう言いながらも、出力を上乗せしようと試行するティム。<アマテラス>の機関がキュルキュルと軋めく叫びをあげる。

垂直方向に急速上昇中の<アマテラス>。ようやく目の前に海面の光を捉えたその時。

「…ううっ…あっ!」何とか気力を持ち直したサニはレーダー盤が捉えた反応に目が留まる。

「こ…後方!海底に巨大な収束反応!昇って来ます!」

「回避行動!」カミラは応じて即座に指示を出す。

「間にあわねぇ!!」ティムが叫び返す。

「シールドよ!急いで!」カミラの発令にアランが応じ、シールドが<アマテラス>の全体を包み込む。

…亜夢!力を借して!…

PSI-Linkシステムを通して直人は、「サラマンダー」の炎のエネルギーをシールドに流し込む。

「来ます!!」

下方の祭壇から、蛇が螺旋を描くように昇り来るエネルギーの奔流が<アマテラス>に襲いかかる。
シールドは「ファイヤーウォール」と化し、そのエネルギー流の直撃から<アマテラス>を守る。エネルギー流はそのまま、<アマテラス>を飲み込みながら海上へと突き抜けていった。

船体を突き抜ける衝撃に揺さぶられながら、その流れに押し上げられるように、<アマテラス>はそのまま海上の空へと弾き出される。

「全スラスタ解放!姿勢制御!」

「ぬぉぉぉぉ!」振り回される船体に持っていかれる舵を懸命に支えながら、ティムはスラスタをコントロールして、船体の安定を取り戻していく。

そこには暴風雨に荒れ狂う外界とは打って変わり、立ち込める雲に覆われた、晴れ渡った青空が天高く拡がっていた。

「『低気圧』の目…」モニターに映し出される鮮やかな空の青さに、思わずカミラは呟く。インナーノーツの一同も大自然の営みの如く広がる世界に、そこが亜夢の心象世界である事をしばし忘れてしまう。

その先の頭上に太陽の如く輝く、時空間変位場がモニターにもハッキリと顕れていた。

「あそこが…目標地点か?」ティムが期待を抑えながら口を開く。

「サニ!座標照合!」「はい!」

手早くサニはIMC のマッピングデータの座標と変位場の座標を照合していく。

「…間違いありません!あの変位場が目標座標です!」

レーダー盤で最終目標座標の確認を行っていたサニは、一同の予測を裏付ける。

「よし、あの変位場で『セルフ』をパージする。いくわよ!全速前…」

「まっ…待ってください!変位場一帯にフィールド波打ち現象発生!!」

カミラの発令をサニの報告が遮る。

「先ほどの上昇エネルギー流!?…PSI パルスパターン、表層無意識データに一致!」

素早く解析を終えたアランが報告を待つまでもなく、集まりだした雨雲が、正面モニターに捉えた目標変位場である太陽を覆い隠す。

…定めこそ我が本懐…

…鎮まれ…我が心に宿いし叛逆の炎よ…

…我と共に永遠の眠りへ…

「あの者」の声が直人の変性意識に響く。腕の中の『セルフ』は、さらに熱量を増す。

雨雲は更に凝縮し次第に「その者」の形を創り出していた。

「総員、第1種警戒態勢!PSIブラスター全門、及びトランサーデコイ射出準備!」

呼吸、血流、鼓動…亜夢の肉体から徐々に生命活動が失われていく…。IMCでは、何とか亜夢の命の灯火を維持すべく、真世は貴美子と連携しながら、対処を続けている。

「身体がどんどん衰弱していく…治療光も…もう…」真世と貴美子の懸命の処置にも関わらず、亜夢の表情は苦悶の表情一つなく穏やかなまま、亜夢の肉体はひたすら死へと向かう。

「…あとは彼らに託すしかない…か。」

東は口渋く呟くと、IMC中央の卓状モニターに視線を落とす。
IMCに送られてくる<アマテラス>の捉えた心象世界の映像は刻一刻と変化していた。

天空に集まった暗雲は、先ほどまで見えていた青空と太陽を覆い隠しながら、蛇の如くとぐろを巻き、海面に尾のように伸びる水柱を巻き上げる。

暗雲の中央が次第に垂れ込めて来ると、それは次第に異形の人の形を形成し始めた。

「人…女…なのか?」ティムはその光景に身を凍らせながら呟く。

暗雲の中に冷徹な女性の容貌が浮かび上がり、それを頭にしながら、直下に滞空する<アマテラス>の頭上へと向かってきた。

「前方、アンノウン、収束率60%突破!相対速度15!」サニはレーダーを通して、「そのもの」の動向監視を続ける。

収束が高まるに連れ、「そのもの」の実体形状が確かなものになっていく。その上半身は女性であるが、下半身は蛇か、或いは魚のような姿をしている。全身は半透明の氷細工のようであるが、黒々とした闇を随所に内包している。

モニターを通してその様子を見つめていた藤川はハッとなる。

「この姿…」

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