8.生と死の狭間で −1

赤く明滅する数個のモニター。大量の機材が雑然と並べられたこじんまりとした部屋だ。

いくつかの機材は床に転がったり、倒されたままになっている。
大きな衝撃がこの部屋を揺さぶり、かき乱した直後だった。今稼動している機材は、おそらく使えるものを急拵えで復旧したものだろう。

白衣を着込んだ、まだ学生を卒業したばかりのような青年…そして、その隣で彼をサポートするベテラン技師の中年の西洋人…

二人はモニター越しに激しく呼びかけている。

あ…東くん、アル?…

くっ…身体が重い…熱い…

『コウ!駄目よ!傷口が!!』

貴美子?そこにいるのは貴美子か?
白髪に染まり切る前の黒髪がまだチラホラ見える。

『セ…センター長!』『コーゾー!こっちは任せろ。』

ビー…ビー…ビー…ビー

警報が鳴りわたっている。

うっ…なんだ…これは?

立ち上がろうとしても身体が動かない。
引き裂き、押しつぶすような感覚に思わず左手で、左脚の太ももを庇う…

短パンより短く切り取られたズボンの裾から、包帯と固定具で固められた左脚が覗く。応急処置そこそこで、傷口も塞がっていない。包帯の赤い滲みがジワジワと広がっていた。

貴美子が持ち込んだ救急道具を拡げ、再手当ての準備をしている。

ガタ…ガタガタガタ…

揺れている…地震?
そうだ、地震だ…まだ余震が続いている。

そうか…ここは、あの時の…

振動で藤川は、身体がそのまま流されるのを感じる。車椅子に乗せられているのだと気付く。

『コウ!』貴美子は揺れる余震で、道具が散乱しそうになるのを咄嗟に食い止め身動きが取れない。
アルベルトは崩れそうになる機材の山を必死で押し留めている。

『センター長!』東が機敏に走り寄り、転がりかけた車椅子を支えた。

『ハァ…ハァ…んぐ…。』今の揺れに思わず力んだせいか、さらに傷口が広がったようだ…呼吸が乱れる。『ハァ…東くん…ハァ…誘導ビーコンとPSI パルスデータ転送を…最大出力で送信し続けるのだ…。』

若者は縋るような目で見つめてくる。その腕を右手で掴み力を込めた。
『いいか…絶対に諦めるな。…ハァ…ハァ…同調を回復させられれば…必ず…必ず帰還させるんだ…んぐっ!』

貴美子が駆け寄り、血の滲んだ包帯を切り裂く。露わになった傷口の再縫合に取り掛かろうとしていた。東が呆然となって自分の顔を覗き込んでいる。
『何をしている!急げ!』『は…はい!』

東は再びモニターに駆け戻り、自分の指示を遂行する。それをアルベルトが機材の修復とプログラムの再構築を神業的な手捌きでこなし、サポートし続けた。

二人の背中、それを赤く照らすモニターに白いモヤが降りる。
『コウ!しっかりして、コウ!』
妻の声も遠くなっていく…。

こんな…こんな傷で。私は、私は!

『…帰って来い…なお…や…。』

「おじいちゃん!しっかりして!おじいちゃん!」

視界が戻ってくると、孫娘が心配と不安の表情で覗き込んでいた。その表情が貴美子と重なる。

「所長!」東、他IMC のスタッフらも藤川の身を案じている。

藤川は、補助杖に力を込め、ゆっくりと膝を上げる。真世がすかさず肩を貸し、藤川を支えた。

そのままゆっくりと、真世に付き添われながら卓状モニターの前にある、彼の席に戻る。

「ありがとう、真世。古傷が痛んだだけだ…大丈夫。」

「おじいちゃん…」思いのほか、意識も足どりもしっかりしている藤川に真世は安堵の笑みを浮かべた。

「コウ!いったい何があったの?真世!?」

真世の席から、真世が先程から連絡を取っていた貴美子が、状況を把握しかね不安の声を上げていた。

「大丈夫だ…貴美子。」藤川は真世の席のモニターに映る貴美子に声を投げかけると、「そう…ならいいけど…」と声を和らげた。

真世が席に戻ると、貴美子が真世に「もう歳なんだから…」「…あの後、再生治療をちゃんと受けていれば…」「お爺ちゃんから目を離さないで…」などと、愚痴やら言付けを真世に捲し立てているのが聞こえる。

IMCの一同もホッと胸を撫で下ろした。
だが、状況は依然、深刻である。

「東くん、現状の再確認だ。」

「は、はい。」

東は、IMC南側壁面の大型パネルに、卓状モニターの映像を連動させ映し出す。そのまま彼は卓状モニターに自動解析、グラフィック化された時空間模式図を表示した。東は、卓状モニターの方で手にしたポインターで模式図を動かしながら説明を進める。

そこには低気圧か、鳴門の渦潮を思わせるような巨大な渦状の図形が広がった。東の説明によると表層無意識でも観測された波打ち現象は刻一刻と変化し、表層無意識から深層無意識へと穿たれた穴のような裂け目を中心とした螺旋運動へと変化している。

「まるでブラックホールだな…」

「はい、このホールは、亜夢の魂が表層、深層共に感知し得ない一種の時空間断層となっています。」

東は硬直した表情で一旦言葉を区切り、再び静かに口を開いた。

「…<アマテラス>の信号はこのホールの中心にインナーチャイルド諸共引き込まれました…。脱出の手段はおそらく…。」

東は目を伏せる。IMCの一同も歯を食いしばり溢れ出すものを堪えている。
真世は、そんな彼らにかける言葉もない。

…風間くん、皆んな…無事に帰ってきて…

コンソールのモニターに向き直った真世は、心の中で静かに祈る。

…おぉやだ、この女、虫唾が走るわ…

そんな真世の心の動きを冷ややかに見つめる目。真世に取り憑いた女式神、彩女は彼女の祈りにあからさまな嫌悪感を持ちながら、彼女の観ている風景を覗き見ている。
その存在に、真世はまだ全く感知していない。

その者の視線は、眼下の保護カプセルに収容されている亜夢に向く。

…ふぅん…この娘の心にも隙間があるというわけかい。…おもしろい。お手並み拝見といこうじゃないか…

「諦めるな。」

藤川は毅然と顔を上げ短く言い放つ。
一同はその言葉に顔を上げる。胆力を備えた彼の言葉は、皆の諦めに傾いた心に歯止めをかけるのに十分であった。

「真世、亜夢の生体反応は?」

「バイタル、極度に低下していますが、まだ…。」

「よし、アイリーン、先程と同じく生体反応をPSIパルスに変換。田中くん、これを最大限に増幅して誘導ビーコンに乗せ、あのホールへ発信。できるな?」

「はい!」アイリーンと田中は早速作業に取り掛かる。

「所長…もしやあの時のように…?」

「うむ…コレがヒントをくれた。」

動かない左脚を軽く叩いて微笑む藤川。

「し…しかし、あの時は…」

「あの時があればこそ…だ。大丈夫、『今度の船』はこの程度で沈みはしない。」

「所長…」東にはその言葉が重くのし掛かってくる。
そうだ、このような事態は既に「あの時」に経験した。今のこのミッションはそれを基に積み上げてきたものだ…だとすれば…。

「あとは彼らと亜夢の生きようとする意志…ということですか?」東も所長の狙いを理解する。

「うむ…。カミラなら必ず決断する。」

バン!!

鈍い音が<アマテラス>の閉塞したブリッジに響く。

「もう!!なんなのよ、ココ!!」

一切の反応を示さないレーダー表示盤を睨みつけながら、苛立つサニはコンソールを叩きつける。

「おいおい、大昔の映画じゃないんだ…。叩いて治ったりしねーよ。」

ティムは諦観したかのような落ち着きぶりだ。

「くそ…。こっちも全く反応しないや…。」

ついさっきまで、熱を帯びた反応があった、直人のPSI-Link システムのインターフェースモジュールも今は完全に冷え切り沈黙している。

「ここへ落ちてから、船内時間でも30分は経つわね…。アラン…何かわかった?」

<アマテラス>の固有PSIパルスを探知波とした時空間ソナーで空間探知を続けていたアランも首を横に振る。

「ソナーの反応が返って来ない…。ボイド空間…時空間断層にハマってしまったようだ…。」

「何それ!?ってことはあたしたち…。」

いつも飄々としているサニも、この時ばかりは唇を震わせ、蒼ざめている。

「差し詰め…『瀕死の狸』と言ったところかしら。」

「た…タヌキ??」自嘲気味に応えたカミラの台詞にサニは複雑な表情を浮かべる。

どこかで聞いた台詞…と直人は思う。

「けど…このままじゃ埒があかないわね。やむを得まい、副長…やるわよ。」

カミラの碧眼に静かな覚悟の色が宿る。

「危険だが…他に手はない…か。よし。」

アランはカミラの覚悟を受け止め、早速準備にかかる。

「どうするんです?隊長?」ティムが問う。

「緊急脱出コード999(トリプルナイン)を使用する。」

「えっ!?」一同に緊張が走る。

緊急脱出コード999-インナースペースから脱出困難な状況を想定して、<アマテラス>に組み込まれている非常用強制エントリーアウトの為のサイバリアパラメーターコードである。
アウト座標への誘導無しにサイバリアの次元パラメータをこのコードで設定した現象界次元に強制偏向させることにより、インナースペースからの脱出を図る。
出現時空は、保存された船内時空情報(出発時の時空座標情報を原点とする)とある程度同期して算出されるものの、PSIバリアが脱出経路として検出する全ての時空情報の干渉を受けること、また現象界との時空間差による誤差を調整しきれないことにより、何処に出るのか特定が困難である。そのため下手をすると次元アウト時に現象界の物体との接触、あるいは地球上の危険地帯だけでなく宇宙空間などの想定外の場所への飛び出し、さらにはタイムワープ、パラレルワールドへのシフトの可能性もあると想定されている。

直人、サニ、ティムもこの緊急脱出コードのリスクは理解している。
起動試験の際、直人が使用したシミュレーション用の非常停止システムとはわけが違う。

「マジっすか…?」隊長の意志を確認するようにティムは問い返した。

「このままここにいても稼動限界を超えた時点で全員、インナースペースの藻屑と化すだけよ。」

カミラは皆が薄々感じながらも口に出せずにいた危機的状況をあえて言葉にする。

その言葉に反論の余地はない。

「…やるっきゃないのね。」ティムは自分に言い聞かせるように呟く。

サニと直人も覚悟を固め、シート深く身を預ける。

「準備オッケーだ、カミラ!」

「よし、総員緊急脱出態勢!シートベルト着用、ブリッジプロテクトモードへ移行!」

全シートのホールドアームが肩に降り、通常、ブリッジ内の視界確保の為、アームで持ち上げられているキャプテンシートが床面に下がり固定される。
ブリッジの入り口は耐水、耐圧隔壁で閉鎖され壁面の大型モニターは破損した際の飛散防止の為、シャッターで保護された。
通常空間に出た際に、何かとの衝突に備えた機能である。

「アラン!目標座標はIN-PSID沖合い3Kmに座標補正!重力ジャイロ連動確認!」

「了解。」

「ティム!うまく出られれば海上よ。次元アウトと同時に緊急フロート展開!」

緊急フロートのレバーを開放し、握りしめるティム。

「じゃ、行くわよ。コード999、起動!」

「起動!」アランがスタートキーを回す。
<アマテラス>のPSI バリアが虹色の発光を伴いながら偏向を開始する。

「時空間自動検出を開始した!転移まで
あと2分!」

その急激な時空間変動は、結界防御されているブリッジ内にも衝突や振動として伝わってくる。

一同は息を殺し、生硬な面持ちでその時を待つ。

「80秒前!」アランがカウントを読み上げて行く。

「70秒前!」一層の振動がブリッジを揺さぶる。

「60秒前!」

その時、サニのレーダー盤に強力な信号反応が現れる。

「た…隊長!レーダーに感あり!」

「何ですって!?アラン!」

即座に解析にかかるアラン。

「こ…これは、誘導ビーコン!?」

「所長だわ!緊急コード停止!直ちに誘導ビーコンへハーモナイズ!」

「了解!」

アランは緊急コードを停止させると、即座に誘導ビーコンとのチューニング作業を開始。ビーコンの座標を辿れば緊急コードより安全に帰還が可能だ。

緊急コード停止後もブリッジの振動は続いていたが、ビーコンへのチューニングが整うのに従い、振動も収束していく。すると、それに呼応するかのようにサニの目の前のレーダーに新たな反応が立ち上がった。

「波動収束フィールドにも収束反応!微弱なPSIパルスも感知!…パルスパターン…インナーチャイルドです!」

「亜夢!」直人は、シートの拘束を解除すると身を乗り出してPSI-Linkモジュールに手を掛け、そのまま誘導パルスを再起動させた。

「ナオ!何をするの!?」

直人の行動を全く予期していなかったカミラは目を丸くする。

「生きてる!まだ生きてるんだ!あの子!」

「だめよ!この状況では危険過ぎ…!」

ぐうぅぅん!

カミラの制止より早く<アマテラス>に強い引力が働く。

「波動収束フィールド、さらに収束反応!インナーチャイルド、実体化率40%を超過!」

「インナーチャイルドとのPSI パルス同調率も回復してきているぞ!どうする、カミラ!?」

アランはカミラに次の指示を促す。
現状、<アマテラス>は、誘導ビーコンにより辛うじて脱出の糸口を掴みかけた。だが、同時にインナーチャイルドの救出の可能性も高まった。未だ時空間断層にある<アマテラス>が、より確実な生還をするには、集合無意識次元に引き込まれかけているインナーチャイルドとの同調をカットして、脱出を優先させるべきなのだが…

「ティム!」直人はカミラの指示を待たず、ティムと連携してインナーチャイルドのサルベージを継続するつもりだ。

「よし!」とティムも腹を据え、<アマテラス>の機関をフルパワーで回し始める。推力が回復した<アマテラス>とインナーチャイルドの引き合いがまた始まった。

「カミラ、この誘導ビーコンの信号…見てくれ。」

アランはカミラのシートモニターに誘導ビーコンに乗せられた信号の波形データを転送する。

「これは。もしや…」

「ああ、俺たちがサルベージに使った亜夢の生体パルスだ。」

「ということは…。アラン!」

「ああ、おそらく。」カミラとアランには藤川の思惑が見えつつあった。

「って、どういうこと??」

カミラの指示を待ちながら二人の会話に聴き耳を立てていたサニは問い掛けずにいられない。

「ミッションはまだ活きてるってことよ。」

そう言いながらカミラはサニへ微笑み返した。

IMCのスタッフらは、壁面の大型モニターに注視し状況を固唾を飲んで見守っている。

一方で真世は自席コンソールのモニター越しに貴美子の指示を受けながら、亜夢の生命維持を継続していた。
魂からのエネルギー供給が弱まった肉体に、その代用エネルギー(医療用PSI精製水をパーソナル調整し、光線変換したもの)を投与する。それは奇しくも真世の母、実世が長年受け続けている治療と同じ療法であった。(実世はこれを定期的に受けている。)
亜夢を収容したカプセルは、この治療光の放つ仄暗い紫がかった色に包まれている。
(治療光は本来視認できないが、投与中の心身状態、部位の状態を視覚的に確認できるように発光処理がされている。その発色や強さ、明るさも個人毎に異なる。)

誘導ビーコンに乗せて送信している生体パルスも、この肉体維持措置によりなんとか保てている状況である。

「コード999を起動していれば、その際のPSIバリア偏向で誘導ビーコンを捕まえることは出来るハズですが…。」

東は不安な面持ちで藤川に語りかける。

「果たして、こちらの意図に気づくでしょうか。」

誘導ビーコンを送信して10分程が経過している。<アマテラス>とのコンタクトは依然回復していない。

「気づいてもらわねば困る。<アマテラス>単独での脱出は難しい。」

「上手くいけば<アマテラス>と亜夢、両方救われます。ですが、一歩間違えれば…。」

瞬きもなく、東は未だ渦潮を映し出す壁面のモニターを見据える。
藤川は東の言には答えず、坐したまま杖の上で両手を組み、刻一刻とプロットが刻まれる渦潮の図をじっと見つめていた。

「やはり…このまま誘導ビーコンを遡って脱出するにも、時空間転移中にエネルギー不足に陥りかねない。」

脱出に必要なエネルギーを再計算していたアランが結果を伝える。

「そんなぁ…じゃあビーコン捕まえたところで意味ないじゃん…」

サニが落胆した口調で言葉を返す。

「そこでこの生体パルスなのよ。」カミラは口元に小さな笑みを浮かべながら応える。サニは落胆の上に困惑の表情を糊塗する。

「ナオ、独断先行はいただけないけど…。」

直人がカミラの叱責を覚悟し俯くと、カミラは言葉を続けた。

「どうやら貴方の判断が正解だったみたいね。今回は不問にするわ。」

「えっ?」カミラの意外な一言にきょとんとなる直人。

「アラン!インナーチャイルドとの同調率増幅!直人、ティムはそのままインナーチャイルドをキープ!」

「は…はい!」直人とティムはカミラの意図を図りかねたが、どちらにせよ現状維持に徹する他ない。

「ブリッジ、プロテクトモード解除。本船はインナーチャイルドのサルベージミッションを継続する!」

アランがブリッジのプロテクトを解除し、モニターの防護シャッターが上がると、そこには先程までの闇から暗い赤、橙、紫などの僅かな光彩が現れていた。インナーチャイルドとの同調が回復した事で、反応が出始めている。

「サニ、十分な同調が確立されるまでインナーチャイルドとの相対距離に気をつけて。」

「りょ…了解!」サニも狐につままれたような面持ちで、言われるままにレーダーに向かう。

レーダーは刻一刻とはっきりとしたインナーチャイルドの形影を映し出す。

「アラン!同調率は?」

「43%!」

「あともう少しね。50%に到達したら通常時空間転移に必要なエネルギーをインナーチャイルドとの同調から確保できるはず!」

「!」ハッとして直人とサニはカミラの方へ振り返る。

「そういう事っすか!それなら!」ティムは操縦桿を握りなおしインナーチャイルドの牽引に力を込めた。

「ナオ!」「ああ!」ティムの呼び掛け一つで、直人も誘導パルスのコントロールに念を入れる。

…亜夢!…

直人はPSI-Linkシステムを通してインナーチャイルドに再び語りかける。

…聴こえてる?…あの炎はキミなんだろ?…

………

…キミはオレに助けを求めてきたんじゃないのか?…

…………

…オレはここだよ…

……………

…絶対に、キミを助ける!…

「同調率50%突破!」アランの報告に呼応するようにブリッジモニターの心象風景が展開されていく。

未だ暗闇の中ではあるが、ところどころ赤味を帯びている。心成しかゴソゴソとくぐもった音がブリッジの振動を通して伝わり、ブリッジが揺れ動くたびに細かい気泡のようなものが現れる。どこか、密閉された水中のようである。

…亜夢!…

PSI-Linkシステムのモジュールに再び温もりが戻ってくる感覚を直人は捉えた。

直人の意識に何か暖かなものが流れ込んでくる…

…赤ん坊?…

…そうか、ここはお母さんのお腹の中…

…亜夢、そこに居たんだね…

直人の心の中にはっきりとしたイメージが浮かび上がる。直人はその赤ん坊に手をさしのばす。

…大丈夫、もうここから出ていいんだよ…

…産まれて来ていいんだよ…

何故かそんな言葉が浮かんでくる。

…さあ…

更に手を伸ばすと、その赤ん坊も恐る恐る両手を広げ、その小さな指で直人の手を取ろうとしてくる。

「同調率60%!機関内圧、時空間転移可能域!」

「よし、誘導ビーコンを遡って表層無意識域の目標座標を自動算出!総員、転移に備え!」

…行こう、一緒に!…

直人はその赤ん坊の手をとる。

「で…出た!!」レーダーを監視していたサニが驚きのあまり上擦った声で叫ぶ。

「また『手』が!」

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